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宇宙飛行士の楽しみは食事!? JAXAの元宇宙食開発担当者が語る「宇宙食のひみつ」

文/石井和美 写真/下城英悟

2016.11.18

衛星放送、カーナビ、天気予報……。社会に役立つこれらのサービスには、国際宇宙ステーションや人工衛星が欠かせません。

いまや宇宙は身近な存在になりつつあり、宇宙飛行士が宇宙に長期滞在するようにもなりました。彼らがどのような生活をしているのか、気になりますよね。

そこで、宇宙飛行士の食事にスポットを当ててみました。これまで宇宙食というと、流動食やフリーズドライといった味気ない食事を想像しがちでしたが、最新のものは、どこまで進化しているのでしょうか?

イベントスクエア「METoA GINZA」で行われた「地上の暮らしに役立つ宇宙~宇宙食のひみつ編~」の会場で、JAXAの元宇宙食開発担当者・中沢孝さんに教えてもらいました。

 

1中澤孝さん

学生時代、マイクロ波工学を学び、NASDAへ入社。ロケットや人工衛星の搭載機器の開発等を経て、宇宙飛行士の訓練設備を開発。JAXA設立後は国際宇宙ステーションに搭載する宇宙食の開発・運用に従事する。現在は広報部にて、普及、啓蒙活動を行っている。 

 

宇宙食は意外にもバリエーション豊富! 地上食と変わらない!?

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 「国際宇宙ステーション「ISS」の中には、6名ほどの宇宙飛行士が滞在しています。ISSでの食事を見ると、アメリカとロシアを中心に、嗜好に合わせていろいろな種類の食事が用意されています。

スペースシャトルに搭乗してISSを訪問した山崎直子宇宙飛行士のとある日のメニューは、朝はコーンフレーク、レーズン入りオートミール、ドライフルーツ、オレンジジュース。お昼はエンドウ豆のスープ、ポークチョップ、夜はお赤飯、スモークサーモン。

他の国を見ると、ロシアは缶詰が多く、フタをパカッと開けても飛び出ないようになっています。ほかにも、じゃがいものピューレ、牛タンのゼリー寄せ、ぶどうとプラムのジュースなどがあります。

ヨーロッパはおしゃれですね。ペースト状のドライトマトやマッシュルームが入っていて、トルティーヤは自分で調理して食べることもできます。

みずみずしい野菜も食べられる!

また、火星など、今よりもっと遠くの宇宙へ行くための研究として、宇宙ステーションにある設備で水耕栽培した野菜を食べています」

 

宇宙生活での楽しみは、宇宙から美しい星や地球を見ることと食事

 

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「最初に宇宙飛行士が宇宙へと旅立ったのは、1961年。今から55年も前のことです。有名なユーリ・ガガーリンですが、彼が宇宙へ行く前までは、宇宙に行って食事をしても、きちんと消化されるのかわかりませんでした。

ガガーリンは地球を1周しただけなので、食事らしい食事はしていないといわれています。その後、ゲルマン・チトフが地球を3周し、そこから宇宙での本格的な食事が始まりました。チトフのときの食事は流動食で、チューブに入っているようなメニューだったそうです。

当時の宇宙食は、栄養さえとれればよく、少しの量で栄養がとれるもの、という観点から開発されました。最初のカプセル型宇宙船はトイレもありませんでしたから、なるべく外へ出ないように、栄養学的な観点からつくられたのですが、宇宙飛行士から拒否されたのです。 

歯ごたえがない、おなかにたまらない、すぐにおなかがすいてしまう、といった不満が出て、地上でふだん食べているものがやはり一番、という結論になったのです。宇宙食というと流動食というイメージがありますが、実際は、限りなく地球上で食べているものに近づいていきました。

1995年、ロシアの宇宙飛行士・ワレリー・ポリヤコフは、438日間という長期にわたって宇宙に滞在できたのですが、それだけに、ロシアが用意した宇宙食の役割が大きかったといわれています。

ISSに供給される宇宙食は、当初は米国とロシアの宇宙食のみでしたが、ISS宇宙食供給の基準文書“ISS FOOD PLAN”を満足すれば、現在は日本を含むISS計画の国際パートナー各国が、ISSに宇宙食を供給することが可能となっています」

 

“宇宙日本食”は2009年から! 若田宇宙飛行士が初

 

「ISSには2000年から宇宙飛行士が滞在を開始し、日本人宇宙飛行士が長期滞在する時期が近くなり、宇宙日本食の開発が始まりました。

宇宙食のISSへの供給はもともと、米露が独占していたこともあり、日本食を加えるためには厳しい条件がありました。ISS Food Plan(食糧供給計画)に記載されている条件に合わせなければなりません。

実際にJAXAで使用している宇宙食開発用の機材 

宇宙日本食は実績がなかったので、保存性や栄養バランスのほかに、パッケージの耐久性を求められました。例えば、火事が起きたときにパッケージに火が移っても有害なガスが出ない、マイナス50℃くらいまで温度が下がってもパッケージが壊れない、といった条件があります。2004年から開発を始め、それをすべてクリアしました。

ロシアは缶詰がお家芸。一方、アメリカの宇宙食には缶詰がほとんどなく、アルミのパウチに入っているレトルトパックのようなものがほとんどです。日本人は、食べ物を見て楽しむ文化もあるので、パッケージを透明にして、アルミのパウチに入れる二重包装にしたのですが、この開発には大変苦労しました。

そして、宇宙飛行士の若田光一さんが2009年に4カ月間滞在し、初めて宇宙日本食を持っていくことができたのです。現在も、1食につき1パック程度、個人用の宇宙食を持っていくことができます」

 6これが宇宙食の「わかめスープ」。わかめが非常に細かくて、まるで青のりのよう。ストローで吸えるくらい、小さくしているとのこと。右はラーメン。お湯を入れて食べる

 

災害時の保存食や福祉分野への応用も検討中 

 

「宇宙食が、限られた人にしか入手できないというのは、非常にもったいないと感じています。宇宙は災害時と似た環境です。冷蔵庫がないので、常温で保存しなければなりませんし、調理も、お湯を入れるくらいしかできません。そのため、宇宙食の常温保存技術を、災害時に応用できないかと考えています。

宇宙食は無重力の状態でも飛び散りにくく、食べやすく工夫されています。寝たきりの状態でも食べやすいものがたくさんあるので、福祉分野でも積極的に応用していきたいですね」

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イベントでは、観覧者から質問が多数寄せられ、大盛況でした。食事ひとつをとっても、開発にはこれだけの苦労があるのですね。子どもが宇宙に興味を持つようになったら、まずは身近な食事のことから学ぶと、より宇宙を身近に感じられるかもしれませんね。

東京・銀座にある「METoA GINZA」では、このようなイベントを無料で定期的に開催しています。ぜひMEToA GINZAのホームページをチェックしてくださいね。

 

人工衛星から大型望遠鏡まで幅広く宇宙事業を展開する三菱電機の宇宙システム総合サイトです。

三菱電機は、1960年代に宇宙事業に参入して以来、通信・放送、物資輸送などさまざまな人工衛星、追跡管制局、大型望遠鏡などを製造しています。人工衛星はすでに50機以上の製造を担当しています。

METoA Ginza(メトア ギンザ)。ここは、新しい発見のある場所。ここにしかない 発見や驚きに、見て、ふれて、体験してもらうための場所です。心が動く新しい 発見を、ここから。

 

文/石井和美

フリーライター・家電プロレビュアー。子ども2人と夫の4人家族。白物家電や日用品の製品レビューを得意としている。Webや雑誌などで多数執筆中。家電blog(http://kaden-blog.net/)管理人。

 

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